「神子元の帰りって眠れないんだよね」
2日間のダイビングを終え、ふと、私は帰りの車の中で呟いた。
去年に続き、私は今年で二回目となる赤沢&神子元チャレンジへ参加をした。
今回で3回目となるが、神子元は出船してから海へ潜るまで独特の緊張感があり、正直、何度参加してもこの雰囲気には慣れない。前日までの余裕は一気に吹き飛んでいた。
「大丈夫、落ち着け、今回も問題なく潜行できる」
自身に言い聞かせながらマスクを両手で押さえ、右足を船体後部から大きく突き出し、海へ飛び込んだ。
「――青い」
まず、最初に目に飛び込んできたのは海の青さだ。運よく黒潮が入り、その青さはまるで沖縄の海と同じ色。どこまでも青かった。
そして水中では他のチームがハンマーを見つけた時に鳴らすベルの音が聞こえないか、またハンマーの影や気配がないか探りながら、皆で固まって移動をしていた。
しかし神子元には潜れる制限時間があり、浮上への時間が刻々と迫る。後で分かったことなのだが、この時は皆 「1本目にハンマーは見れないだろう」 と思っていたらしい。
すると、池田さんが一点を指差しキックのスピードを上げた。
皆も倣うように突き進む。
――青い海の奥に黒い影が見えた。
「ハンマーだ!」
「群れでいるぞ!」
水中でお互いの声は聞こえないが、そんな風に叫んでいる声が聞こえた気がした。
そこから皆のスピードが一斉に上がる。
ルミさんがダッシュを決め、シヅさんも水中を爆走している。フクちゃんに至っては後ろからとんでもないスピードを出し、池田さんの上を通過した。
正直、私は置いていかれないようにするのが精一杯である。
――グン!
そんな遅い私を 池田さんが、ハンマーの群れの近くまで私を引っ張ってくれたのだ。
面と向かって言い辛いが大変感謝している。
「見れて良かった!」
「本当にリバーだったね!」
皆で浮上し、水面で船を待っている間、興奮しながら感想を言い合った。そして船に戻ると満足そうな表情を浮かべている。
皆、朝までの不安は消えたようだ。
今回の神子元もハンマーを見ることができ、とても運が良かったと思う。
天候、体調、楽しいメンバーに恵まれ、ありがたさも感じている。
器材を片付け、東京に向けて出発した車の中では早くも写真や動画を見返し、話が盛り上がっていた。
「来年は4航海がいい!」
「2日間とも神子元がいい!」
皆、来年の希望を言い始める。
そう、神子元はそれほどまでに”魅力的な海”なのだ。
まだ何も決まっていない未来を想像しながら、私はあることを思い出し呟いた。
「前回もだけど、神子元の帰りって眠れないんだよね」
その言葉に対して「嘘でしょ?」などとも言われたが、途中に休憩を挟みつつ赤沢、熱海と車は通過していく。途中下車をしたため私は最後まで皆と話は出来なかったのだが、どうやら池袋まで誰も寝なかったらしい。
――興奮覚めぬ海、皆の神子元チャレンジは来年へと続く。
Ayumi